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「ハロウィン? ハロウィン! その2」

「つーわけで、お前にもやるよ」
「一体何のために呼び出したのかと思いきや……なんだそのいかがわしい薬は」
「ラムネ味らしいぜ」
「味の話をしているわけじゃない」
 目の前で腕を組むリーチは、ふかぶかとため息をつくと朝方俺がしたような眼差しを向けた。
続き
 お、このファミレスのチョコモカ用のコーヒーメーカー変わったのか。すげーうまい。
 しれっと反応もせずにカップを持つと、ヤツは俺と違ってお代わりしたばかりのキャラメルマキアートをひとくち飲んだ。
「お前ってさ、もし自由自在に操れる夢が見れるっつったら、何見んの?」
「普段、夢はあまり見ないタチだ。夢ばかり見ているのは、深く眠れていない証拠だと言うぞ?」
「何言ってんだ。人間誰でも夢見て記憶整理してるっつの。ただ単に、お前が覚えてないだけだぜそれ」
「……穂澄も同じことを言っていたな」
 ぶつぶつと『どうしてお前たちは重なるんだ』なんて文句が聞こえた気がしないでもないが、いつものことなので放置決定。
 最近というか、ほずみんとリーチが付き合ってると発覚して以来、瑞穂含めた4人でちょいちょい会う機会が増えたが、リーチはそのたびにおもしろくなさそうな顔をする。
 理由は簡単、ほずみんが俺と話すから。
 元担任なんだから喋るくらいいいだろとは思うが、どうやらコイツは予想以上にキャパが狭いタチだったらしい。知らなかったぜ、お前がそんなに独占欲強いとか。
 だいたいソレ言ったら俺だって、瑞穂がにこにこしながらお前のこと『高鷲先生』って呼ぶの気に食わねえっつの。
 瑞穂にとっての“センセイ”は俺ひとりで十分。
 だかしかし、ンなことを当然俺は口にしないし態度にも出さない。
 そりゃま、瑞穂はほずみんと違って俺の腕をばしばし叩いたりっつーボディタッチは一切しないからってのもあんだろーけど。
 でも、お前が嫉妬するたびほずみんがすっげぇ嬉しそうな顔するってこと、知らないんだよなーコイツ。
 どんだけ愛されてんだお前。ぶぁーか。だからもうちょっと自覚すればいい。
「なんでも、表じゃ出回ってないらしいぜ? なんちゃら製薬の一部の部門が、一部のコアな連中に売りさばいてるとかって話だしな」
「……聞けば聞くほどいかがわしい」
「まぁそう言うなって。小説家とか映画監督とかってのが主な顧客らしいぜ。実際動かしたらどんな感じかってのを、前もって自分で構築することで、リアルに反映できるからってのがもともとの販売目的らしいし」
 俺も詳しくはよく知らない。
 それでも、ぶっちゃけ楽しそうだなとは思った。
 見たい夢が見られるなんて、ある意味ストレス解消だ。
 人によっちゃトンデモな内容を見るんだろうが、それもまぁ個人の自由といえばそう。
 リアルの世界で実行しないかぎり、妄想は妄想でかたがつく。
 思うだけなら自由。口に出せば犯罪。
 そんなモンだろ、世の中。
「お前、見たくねーの? 楽しい夢」
「楽しいかどうかわからないだろう、そんなもの」
「ったりめーだろ。だから体験すんだよ。やる前から決めんな」
「……く……」
 カップを持ったままリーチを指差すと、それはそれは嫌そうな顔で視線を逸らした。
 てかまー、俺としてはものっそい気になるんだよね。
 コイツ、こんな堅いことばっか言ってるけど、どんなこと考えて、どんな妄想してんだろ。
 俺よかよっぽどハードで、実はものすごーいことを考えてるかもしんない。普段から。
 ま、俺が考えないような政治経済っつー小難しいことも当然考えてんだろーけど。
「2つあンから、ほずみんにもやれば?」
「っ……馬鹿か! そんな得体のしれないモノ、穂澄に飲ませられるわけがないだろう!」
「んじゃ、まずはお前自身で確かめればいいじゃん。害はないってさ」
「どうしてそう言いきれる!」
「ググれよ。いろんなとっから、結構情報上がってンから」
 これ以上あーだこーだ言っても、平行線なのは変わらないだろうな。
 それでも、多少は興味があるってのはみえみえ。
 じゃなきゃ、速攻席立ち上がって帰ってるぜ。
 かわいくてたまらない、ほずみんのために。
「っと、んじゃまた連絡する。俺、明日ケース会議あんだわ。それの資料まとめねーとな」
「仕事が残っているなら、そっちを優先すべきじゃないのか?」
「馬鹿だなー、お前とお前のかわいい彼女のほうが俺にとっちゃ優先順位高いんだよ」
「……しれっと嘘とつくんじゃない。それでも貴様、小学校教諭か?」
 にやにやしてたのがマズかったらしく、リーチがあからさまに嫌そうな顔をした。
 おーおーなんとでも言えよ。その通りだぜ。
 あー楽しみ。
 数日後、俺が思ってもない以上の報告がもらえることを期待する。

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